1. はじめに:内線交換機(PBX)兼「知的郵便拠点(Postal Hub)」としての Web/A Post

Web/A Folio プロトコルにおいて、Web/A Post は「アイデンティティとコンテキストの仲介者」として機能する。

それは単なるバックアップや受動的な私書箱ではなく、個人のアイデンティティと外部ネットワークを繋ぐ**「知的内線交換機(PBX)」であり、不在時にもメッセージを仕分け、検証し、ルールに基づいて代理応答を行う能力を備えた「知的郵便拠点(Postal Hub) / デジタル郵便局」**である。

このモデルでは、マスターデータは常に個人の手元(Local)にのみ存在し、Web/A Post は「コンテキストに基づく配送と知的窓口業務」に特化した責任を負う。

2. ロール(役割)の定義:Admin, Member, Guest, Visitor

Web/A エコシステム内のアクセス制御は、以下の役割に基づいて厳格に行われる。

  • Admin(管理者): Folio の全権限を持つ。ルート鍵の所有者。
  • Member(メンバー): 家族や組織メンバーなど、信頼された内部者。特定のフォルダへの読み書きが可能。
  • Guest(ゲスト): 一時的なアクセス権を与えられた外部者。did:key 等を用いて特定の手続き(フォームへの回答等)を行う。
  • Visitor(ビジター): 他の Folio / Post から発行された正式な DID を保持する外部者。自律的なアイデンティティを持ち、フェデレーション(組織間連携)を通じて認証される。

3. DID マッピングと Inter-Folio ネットワーク

Folio 間の通信(Inter-Folio Networking)を成立させるため、複数の DID モデルを使い分ける。

3.1. did:key から did:web へのバインド

  • Folio内通信: 軽量で使い捨て可能な did:key を主に使用する。
  • 組織間通信: 永続的なエンドポイントを示す did:web を使用する。

Web/A Post は、これらの DID 間の紐付けを Verifiable Credentials (VC) を用いて管理する。この紐付けは必ずしも 1:1 である必要はなく、用途に応じて複数の did:key を一つの did:web(あるいはその逆)にマッピングする動的なアドレッシングを実現する。

3.2. Verifiable Data Repository (VDR) としての責任

Web/A Post は、メッセージの配送については「ベストエフォート(一時的なバッファ)」としての性格を持つが、権限管理にまつわる DID や VC に関しては、信頼できる Verifiable Data Repository (VDR) として機能する。

  • 公開鍵の有効性管理。
  • 必要に応じた VC の失効(Revocation)処理の執行と公開。
  • プロトコルレベルでの信頼チェーンの維持。

4. ルールベースの自動応答:データ権限の賢い委託

Web/A Post のコア機能は、Inbox/Outbox といった受動的なバッファに加え、「ルールベースの自動応答(Auto-responder)」 を提供することにある。

4.1. ローカル・コントロール、リモート・エグゼキューション

データの所有権(Data Ownership)はローカルにあるが、ユーザーは「特定の条件下でこのデータを提示してもよい」という委託ルールをサーバ(Post)にプッシュすることが可能である。

4.2. 主な応答ユースケース

  • プレゼンスと告知: 休暇中の通知、現在のステータス表示。
  • スケジュールの可視化: 予定表の空き時間(詳細は伏せたまま枠のみを提示)。
  • 属性(Attribute)の提示: 頻繁に問い合わせがある基本的なプロフィールや、検証済みの属性(FAQ 形式)。
  • インテリジェント・ルーティング: 送信者の属性(Member か Visitor か等)に応じて、即時に保存するか、追加の検証を求めるかを判断する。

5. 結論:書類鞄(Local)と「知的郵便拠点(Post)」の機能分離

Web/A アーキテクチャにおいて、その役割は「マスターとしてのローカル」と「知的仲介者(Intelligent Mediator)としてのリレーインフラ」へと明確に分離されている。

個人の手元にある Local Folio が**実体としての「書類鞄」であるならば、Web/A Post は自律的な「知的郵便拠点(Postal Hub)」や「デジタル窓口」**として機能する。

コンテキストを意識した配送、堅牢なアイデンティティ管理(VDR)、そして委託されたルールによる知的代理応答。これらが組み合わさることで、ユーザーは自らのデータを主導権(Sovereignty)下に置きながら、常時接続社会において真に「知的で安全な」デジタルプレゼンスを確立することが可能となる。