Wallet(財布)ではなく、Folio(書類鞄)。

Web/A Folio は、Web/A エコシステムにおける「ユーザーデータの保管領域」を指す概念です。 従来の「デジタルウォレット」が持つ金融・資産管理のニュアンスを超え、個人の活動履歴、作成した文書、そしてアイデンティティを証明する鍵を統合的に管理する、ユーザー主権のデータコンテナです。

コンセプト: データと知能の疎結合

Web/A Folio の核心は、「データ(Folio)」と「知能(Agent)」の完全な分離にあります。

  • The Folio (Data): 静的で永続的な資産。ユーザーのPCやクラウドストレージ上の「単なるフォルダー」として存在します。特定のベンダーやアプリにロックインされません。
  • The Agent (Intelligence): 動的で交換可能な知能。Gemini, Claude, ChatGPT, あるいはローカルLLMなど、その時々で最適なAIを「雇い」、Folioへのアクセス権を与えて作業を依頼します。

ユーザーは Folio を持ち歩き、必要に応じて Agent を付け替えることができます。

原則: 見読性と機械可読性の両立

Web/A の哲学に則り、Folio に格納されるすべてのファイルは、「人間が見て理解できる(見読性)」 と同時に 「Agentが処理できる(機械可読性)」 という性質を兼ね備えるべきです。

  • ブラックボックスを作らない: 特殊なバイナリ形式や、開発者しか読めない複雑な設定ファイルは極力避けます。
  • HTML as a Container: プロフィール情報や証明書も、ブラウザで開けば「カード」や「賞状」として閲覧できる HTML ファイルであることを基本とします。内部に JSON-LD 等の構造化データを含めることで、Agent への可読性を担保します。

哲学: API連携から、本人ハブ連携へ

「システム同士をAPIで繋げば解決する」という考え方は、しばしば現実の壁に直面します。多くのサービスが相互連携しようとすれば、接続数は飛躍的に膨れ上がり、コストは増大します。

Web/A Folio は、「本人(ユーザー)」をデータ連携のハブ(結節点)とするアーキテクチャ を提案します。

  1. 接続コストの抑制: 全てのサービスは「本人(Folio)」に対してデータを出力し、本人からデータを受け取るだけで済みます。個別のサービス間連携は不要になります。
  2. 責任と同意の復権: データは必ず「本人」の手元を経由し、本人が中身を確認し、署名(合意)した上で相手に渡されます。
  3. AI 親和性 (AI Readiness): 各社独自のAPIをAIに学習させるコストは高いものです。しかし、「FolioにあるHTML文書を読む」というスキルは汎用的です。人間向けのインターフェースをそのままAIの入力とすることで、自動化の障壁を劇的に下げることができます。

ワークフロー: Agent による代理記入

  1. 投入: ユーザーは、記入が必要な Web/A Form を Folio の受信フォルダに放り込みます。
  2. Agent接続: ユーザーは好みの AI Agent に対し、Folio へのアクセス権を与えます。
  3. 文脈理解: Agent は Folio 内の過去の履歴や証明書を読み取り、ユーザーの状況を理解します。
  4. 自動入力: Agent は文脈に基づき、フォームを代理記入します。
  5. 署名と言明: 最後にユーザーが内容を確認し、自身の鍵を用いて署名(Passkey認証など)を行って完了します。

本人確認:National IDによるHolder Binding

汎用的なWeb環境で安全な鍵管理を行う手段として Passkey (WebAuthn) を活用します。Passkeyは端末内の鍵として安全ですが、その鍵が「誰のものか」を証明する機能は持ち合わせていません。 Web/A Folioでは、政府の身分証そのものをデジタル化(VC化)して持ち歩くのではなく、すでに存在する公的署名基盤(マイナンバーカード等)を用いてPasskeyの公開鍵を紐付ける 「Holder Binding」 モデルを採用します。これにより、他の証明書と公的な本人性を安全に結びつけることが可能になります。

  1. デバイスで Passkey を生成。
  2. National ID の署名用電子証明書を用いて、その公開鍵に対して本人による署名を実施。
  3. この署名を「Binding VC」として Folio に保存。これは「このPasskeyは、この公的身分証の持ち主によって承認されたものである」という証拠になります。
  4. 提示ワークフロー:学位記や住民票などの他の証明書(VC)を提示する際、Passkeyで署名した提示(VP)にこの Binding VC を添えて送付します。

日常的な操作は生体認証(Touch ID/Face ID)だけで完結しつつ、トラストチェーンを通じて公的身分証と同等の本人性を間接的に証明することが可能となります。

なぜ "Wallet" ではないのか

  • 能動性: Wallet は「しまう場所」ですが、Folio は Agent と組み合わせることで「仕事をする場所」となります。
  • 汎用性: 金融資産だけでなく、申請書、契約書、作品、健康診断結果など、人生のあらゆるドメインを扱います。
  • 親和性: ファイルベースのアーキテクチャである Web/A にとって、フォルダーのアナロジー(書類鞄)は最も自然で強力です。